飼い犬は猛犬でした。
「きゃあ! こっち向いて!」
「おはよう! 教室まで一緒に行かない?」
「かっこいい〜幸せ!」
など、ピンク色の歓声ばかり聞こえる。
まるでジャ〇ーズが街中にいたかのような……
ようやく光が見えてきた。
――これを抜ければ……
と、わたしはやっとの思いで人混みの中心へと顔を出すことに成功した。
ここに一体何が……
「…………!」
顔を上げた瞬間、1人の男子生徒と目が合った。
おでこの上で結ばれた前髪がふわりと風に揺れた。
ぷくりと少し肉厚の唇は小さく開かれていて、キリッとした端正な目は驚いたように開かれている。
――どうしよう、目が合っ……
あれ……この人どこかで……
180以上ありそうな高身長で、かなりの筋肉質……パッと見ただけで分かるほど美形で整った顔立ち……
「……ッ!」
そうだ、昨日の! 昨日わたしを助けてくれたあの人だ……
どうしよう、バレたら終わりだ……
――ううん、バレるわけなんて無いんだ……今のわたしはこんなに冴えない……。
気付いてもらえるわけなんて……ないに決まってる。