勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
空を仰ぐと、青々とした木々の隙間に、



太陽の光がキラキラと弾んでいる。




九条さんに会えなくて、



この二週間ものすごく落ち込んでいたのに、



九条さんにほんの一瞬会えただけで、



こんなにも世界が明るく輝き始めるなんて。




九条さんの触れた頬っぺたに、



そっと手のひらを添えたその時。




「西園寺、彩梅さん?」




近づいた人の気配に、びくりと飛び跳ねる。




なんだか大学って、心臓に悪い……




顔をあげると、



そこにいるのはピアスをした茶色い髪の男のひと。




シルバーのアクセサリーに、すこし破けたTシャツ。



可愛らしい顔立ちにはそぐわない鋭い瞳。




「西園寺家の二女の彩梅さん、でしょ?」




……どうしてこのひと、私の名前を知ってるんだろう?




『知らないひとに話しかけられたら、走って逃げましょう』




小学生の頃、先生がよく口にしていたその言葉を思い出す。




……よし、逃げよう。




さっと立ち上がり、その場を離れようとしたところで、



腕をつかまれた。




「ひいいっ」




あまりの恐怖に、肺から高音の空気が漏れる。




喉の奥がきゅっと締まって、



まともな言葉がでてこない。




「あのさ、その反応けっこう傷つくんだけど。



変質者対応、やめてくれる? 



それとも、九条彩梅さんって呼んだほうが良かった?」




「……え?」




九条……彩梅?




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