勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「あのさ、優しくて面白くてよく笑うって、だれのこと?」




……え?




「千里は、人に無関心で冷徹ってよく言われてるよ」




九条さんが、ひとに無関心で冷徹?




「千里はさ、あんまり人に心を許さないんだよ。



まあ、九条家の跡取りとして



色々背負ってるものがあるからなんだろうけど。



とくにあいつはあの見た目だから、



寄ってくる女も多くて苦労してる。



女と無駄な時間を過ごすくらいなら、



コタロウと散歩してるほうがましって、よく言ってるよ」




小鳥遊さんの語る九条さんと、



私の知っている九条さんが重ならない。




だって九条さんはいつも優しくて、



ちょっと意地悪なときもあるけど、面白くて温かい。




なにより九条さんは人に無関心でもなければ、



冷徹なひとでもない。




「私の知らない九条さんの一面があるのかもしれないけれど、



私は九条さんほど温かくて優しい人を知りません。



それに、もし本当に冷たいひとだったら、



私みたいな面倒くさいお荷物を引き受けたりしないはずです。



すごくお祖父さん思いの、温かい人です!」




「そんなにムキになるなよ。



俺も千里のことを冷徹で無関心な人間だなんて、



全く思ってないよ。



ただ、家柄を目当てに近づいてくる奴が多すぎて、



千里がちょっと歪んじゃったのは確かだよ。



コタロウがいればいい、みたいな?」




「九条さんは、歪んでなんていません!」




だって、それほどコタロウくんが可愛いのだから!




「そんなに怒るなよ。えっと、彩梅ちゃんだっけ? 



あのさ、あんたのそういう気持ちって、



千里は知ってるの?」




小鳥遊さんのまっすぐな瞳にとらえられて、下を向く。




「たぶん、気が付いていて、遠回しに拒絶されてます」




「まあ、千里が戸惑うのも分からなくはないけど。



彩梅ちゃんのまっすぐで迷いがない感じって、



ちょっと怖いんだよね」




「怖い……?」




「そういうのってさ、



俺たちが失っちゃった種類のまっすぐさだから。



なんていうか、受け止めようと思ったら覚悟が必要」




小鳥遊さんの言っていることが、よく分からない。




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