勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「草履、疲れない?」




「は、はいっ、だ、大丈夫ですっ」




突然顔をのぞきこまれて、ぴょんと後ろに飛び跳ねる。




び、びっくりした!




なんだかもう、ドキドキしてたまらない。




でも、うちのお父さんなんて、



お母さんが着物を着ててもスタスタと先に歩いて行っちゃうのに。




九条さんは優しいな。




「お姉さんの代わりに来るからって、



わざわざ着物で来なくても良かったのに。



朝から大変だっただろ?」




「振り袖を着せてもらえる機会なんて、めったにないので」




「着物、好きなの?」




表情をゆるめる九条さんに、笑ってうなづく。




「本家に古い着物がたくさんあるんです。



どれも美しいものばかりで……」




「だから着慣れてるんだ?」




……って、言いながら笑ってますね?




笑いをこれえきれていない九条さんをちらりと睨む。




「……九条さん、もう少し笑うの我慢してくださいっ」




あんなに派手に転びかけたら、



着物が好き、なんてとても言えないけれど!




「くくっ、ごめんな。



彩梅さんの反応が可愛いすぎて、意地悪したくなる」





可愛すぎて、……意地悪したい?




もう、どこまで本気で言っているのか、全然わからないよ!




ぷくっと頬っぺたをふくらませると、



九条さんの両手が、私のほっぺったを挟まれた。




……え?



< 26 / 250 >

この作品をシェア

pagetop