勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
目を丸くして九条さんを見つめると。




「彩梅、怒ってる?」




「お、お、お、」




「お腹、すいた?」




「お、怒ってます!」




い、いきなり名前を呼び捨てにするとか!



頬っぺた、触るとか!



ドキドキしすぎて、本当に心臓止まっちゃうよ!




「すげえ、顔、真っ赤!」




「九条さんのせいです!」




九条さんは楽しそうに笑っているけど、



もう恥ずかしくてたまらない。




すると、前を歩くふたりが手をつないでいるのを見て、



九条さんが悪い顔をして振り返る。




「俺たちも、手、つなぐ?」




「だ、だ、大丈夫です!」




全力でお断りすると、九条さんが吹き出した。




「ヤバイ、彩梅、ほんと面白い」




……九条さんは、ちょっとひどいです。




「九条さん、私のこと、からかって遊んでますよね……」




「うん」




「せめて、否定してくださいっ!」




「ごめん、ごめん、彩梅が可愛くて、つい」




「可愛いの使い方、間違ってます!」




九条さんをじっと睨んでみるものの、



その甘い笑顔に勝てるはずもなく。




「どうした?」




「なんでもないです……」




九条さんにドキドキしすぎて、心臓に悪い。




やっぱり、私にはお見合いなんて早すぎた。




ふうっと溜息をついて、あたりを見回す。




「……でも、ここは本当に楽しいです。



着物を着て浅草を歩けるなんて思わなかったから、



すごくうれしい」




「それなら、連れてきて良かった」





柔らかく笑う九条さんにドキリ。





お父さんはいつも怖い顔しているし、



おじいちゃんは威厳の塊みたいな人だから、



よく笑う九条さんがすごく新鮮で。




九条さんの極上に甘い笑顔を


ドキドキしながら見つめていた。




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