勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
九条さんが連れて行ってくれた



こじんまりとした天ぷら専門店で、




向かい合わせに座った九条さんは、



ジャケットを脱いで、片手でネクタイを緩めている。




そんな大人の仕草に



ドキリと心臓が飛び跳ねる。




「九条さん、すごくモテそう……」




思わずぽつりと呟くと、




すぐ目の前に九条さんの顔が近づいて。




「俺は、彩梅がいいんだけど」




……え?




「俺じゃだめ?」




「で、でも、私は姉の、その、代理なので!」




「彼氏とか、いるの?」




「ま、まさか!」





彼氏どころか、たったひとりの男友達すらいないなかで、



この状況は、とっても心臓に悪い。





「でも、綺麗だからよく声かけられるでしょ?」




破裂しそうな心臓を押さえて、ぶんぶんと首を横にふる。




最後に声をかけられたのは、



落とした定期入れを拾ってくれた近所のおじいちゃんだ。




「興味ないの?」




「な、ないわけでは、ないんですけど」




こ、こんなこと聞かれたこともないし、



それ以前に、男の人とまともに話したこともないし。





不慣れすぎるこの状況に、頭のなかはもう真っ白!





「彼氏、ほしいとか思わないの?」




「思わない、です」




「どうして?」




あまり深く考えたことは、なかったけれど。




「いつか、西園寺家が決めた方と、結婚するので」




「見合いで結婚するって、もう決めてるの?」




こくんとうなづく。



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