勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
びっくりして目を見開くと、



さわやかに笑う九条さん。




「嘘に決まってんだろ。なんでも真に受けるなよ」




し、心臓に悪すぎるっ!




すると、周囲を歩く人たちが



すれ違いざまに私たちをちらり。




なかには、



足を止めて九条さんに見惚れている女の人もいて。




九条さん、ものすごく注目されてる!




「あ、あの、今日はどうしてここに?」




「たまたま?」




そう言って甘く笑う九条さん。




その国宝級の笑顔に、



ぎゅぎゅっと心臓が痛くなる。




とびぬけて端正な顔立ちと、透明感あふれる仕草で



まわりを惹きつけている九条千里さんは、



23歳の大学院生。




いろいろあって、



私、西園寺彩梅は九条千里さんの『許嫁』なのですが。




「彩梅、おいで」



「は、はいっ!」



ぴょんと飛び上がると。



「コタロウか!」



九条さんに笑われた。



コタロウくんは、



九条さんが溺愛している



自慢のラブラドールレトリバー。



「でもほかの男に尻尾ふるとか、ダメだよな?」



 ちらりと睨まれて。



「しっぽ振ってないです! 



だって、しっぽなんて、ついてないし!」



全力で抗議すると、くしゃりと頭がなでられた。


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