勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「よく、浅草来るんですか?」




「いや、あんまり来ないよ」




九条さんの極上に甘い笑顔が夕日に映えて、



ぴょんっと心臓が飛び跳ねる。




「九条さん、デートとか、慣れてるのかと思いました」




ちょっとした気遣いに九条さんの優しさとか



経験値の差をものすごく感じてしまうから。




「俺、あんまり女と出掛けるの好きじゃないし」





……え?





女の人が好きじゃないってことは……



も、もしかすると九条さんは男の人が……?




「……ごめんなさい、お見合いなんて辛かったですよね」




「は?」




「大丈夫です。ちゃんとこのお見合いは、お断りするつもりで来ているので、それは安心してください」




まわりの人には言いにくいだろうし、



ましてや九条ホールディングスを背負っているなら



なおさらのこと。




「なんの話をしてるんだよ?」




怪訝な顔をしている九条さんの耳元に、こそっと呟く。




「あの、だから、その、……九条さんは、



男の人が好き、なんですよね?」




「……は?」




「だ、大丈夫ですよ。だれかに言ったりしませんから! 



お父さんにもお母さんにもいいません! 



あの、私は、応援してますから!」




じっと真剣な顔で九条さんを見上げると、



九条さんは眉を寄せて固まっている。




「……そんなこと、微塵も言ってないよな?」




「で、でも、女の人を好きじゃないってことは、



その、そういうことなのかと……」




おそるおそる九条さんを見上げると、



九条さんが険しい顔で私を見下ろす。




あっ! 言葉にしちゃいけないことだったのかも……!




「彩梅、そろそろ、本気で怒っていいか?」




視線を尖らせた九条さんに両手で捕獲されて、



九条さんが、とっても近い!




……ちょ、ちょっとこれは、近すぎるような‼




す、少し、不適切な距離感というか‼





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