勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
自宅まで送ってもらって車を降りると、



九条さんにぺこりと頭をさげる。




「あの、ごちそうさまでした。



洋服も、ありがとうございました。ずっと大切にします」




そのとき、九条さんが手にしたスマホの画面が目に入る。




「……あ、コタロウくんですか?」




ラブラドールレトリバーのコタロウくんがボールをくわえている姿が、



ホーム画になっている。




「そうそう、昨日撮った写真。可愛いだろ、



こいつ、めちゃくちゃ賢くってさ」





か、可愛いすぎるっ!





「私、犬、飼ったことがないから、本当にうらやましいです」




「それなら、つぎに会うときは、コタロウを見に来るか? 



じじい達に勝手に予定決められるくらいなら、



自分たちで行きたいところを決めたほうがいいだろ」




「会いたいです! コタロウくんに!」




「じゃ、決まりな」




うわっ! 




本物のコタロウくんに会えるなんて!




「うちはお父さんが犬嫌いで、



ずっと犬を飼わせてもらえなかったから、すごく嬉しい!」




「じゃ、コタロウの散歩にでも行こう」




お散歩! 




ずっと憧れてた愛犬のお散歩!




すると、ぽんぽんと頭をなでられて、ボッと顔が熱くなる。




「彩梅、顔、赤くなってるぞ。特訓するんだろ?」




そう言いながらも、九条さんの手は、



私の頭をまだポンポンとたたいていて。




子供扱いされてるだけだって分かってはいるけど、



心臓が破れそうです……




「くくっ。慣れるまでしばらく時間がかかりそうだな」




ううっ、ドキドキしすぎて倒れちゃいそうだよ……




「じゃ、彩梅、またな」




柔らかく笑って帰っていった九条さんを、



見えなくなるまで見送った。



< 76 / 250 >

この作品をシェア

pagetop