歪ーいびつー(どんでん返し系 狂愛ミステリー)
※※※





 キャンプファイヤーで夢ちゃんの隣へと座った俺は、目の前で行われている点火式から視線を外すと、隣にいる夢ちゃんへと顔を向けた。


「ーー夢ちゃん、夢ちゃん」

「……っえ!? ……な、何?」


 突然話しかけた俺に驚き、少しだけ声を上擦らせた夢ちゃん。
 そんな姿に、思わずクスクスと笑い声を漏らす。


「……驚かせてごめんね。実は、家から花火持ってきたんだけどさ。キャンプファイヤーが終わったら、皆んなでやろうよ」


 そう言って小首を傾げると、途端に笑顔を咲かせる夢ちゃん。


「……うんっ! 花火、楽しみだねっ!」

「夢ちゃん。シーッだよ? 先生に見つからないようにしなきゃね」

「あっ……! う、うん……」


 俺が口元で人差し指を立てる仕草をみせれば、それを見た夢ちゃんは声を潜めた。
 そんな夢ちゃんが可愛くて、再びクスリと笑い声を漏らすと前を向く。


(ホント、可愛いなぁ……)


 そんなことを考えながらも、チラリと隣りの様子を盗み見る。
 するとそこには、自分の手元を見つめて小さく微笑んでいる夢ちゃんがいる。

 その視線を辿ってみるとーー
 そこに見えたのは、貝殻の付いたブレスレット。

 先程、川へ遊びに行った時に涼から貰った貝殻。それを、どうやらお揃いのブレスレットにしたらしい。
 おそらく、涼にあげるつもりでいるのだろう。

 とても嬉しそうに、片方のブレスレットを自分の手首へと付けた夢ちゃん。

 その姿を見てーー俺は、激しく嫉妬した。


 初めて夢ちゃんに出会った時から、いつだってその隣には涼がいた。

 一目見た時から、夢ちゃんのことを自分のものにしたいとーー
 そう思っていた俺は、涼の存在が邪魔で邪魔で仕方がなかった。


 ーーそこで、ある名案を思いついた。

 邪魔な涼と優雨ちゃんをぶつけて、上手いことお互いに潰し合わせてしまおう。そう、考えたのだ。

 正義感の強い涼は、きっと優雨ちゃんから夢ちゃんを守ろうとするはず。
 優雨ちゃんは単純なので、俺が少し(あお)るとすぐに嫉妬心を()き出しにした。


 これで、上手く着火はしたはず。

 あとは……その炎が、大きく育つのを待つだけーー


 夢ちゃんから視線を外すと、目の前で勢いよく燃え上がる薪を見つめる。


(早く、何か起こらないかな〜……)


 パチパチと薪を燃やしながら、上空へと向かって勢いを増してゆく炎。

 そんな、綺麗に燃え盛る炎を眺めながらーー

 俺は期待と高揚に小さく胸を震えさせると、喜悦した微笑みを浮かべたのだった。






※※※






 キャンプファイヤーも終わり、テントへ戻ろうと1人で歩いているとーー
 少し離れた場所で、涼と優雨ちゃんが一緒にいる姿が目に留まった。

 ーーどうやら、早速あの2人に動きがあったらしい。

 クスリと小さく笑みを漏らすと、そのまま連れ立って何処(どこ)かへと向かう2人の後ろ姿を、気付かれないよう注意しながら追い掛ける。
 暫くして川辺へと辿り着くと、大きな岩場に腰を下ろした2人が、何やら会話をし始めた。

 遠くで隠れて見ているだけの俺には、その会話までは聞こえなかったけれど……。
 きっと、その内容は夢ちゃんの事に違いない。



ーーーカサッ。ーーー!?



「……奏多?」


 音のした方へと視線を移してみると、茂みに隠れて涼達の様子を伺っている奏多がいる。

 奏多も夢ちゃんの事が好きだから、夢ちゃん以外の人と何処かへ行く涼が気になったのだろう。
 大方、涼が誰かと仲良くしようものなら、それを夢ちゃんに告げ口でもするつもりでーー


 俺はその視線を奏多から川の方へと戻すと、岩場の上にいる2を見た。
 すると、話しが終わったのか、おもむろに立ち上がった涼が岩場を離れようとした。

 次の瞬間ーー

 優雨ちゃんが、目の前の涼を川へと突き落とした。

 ーー呆然とその場に立ち尽くす優雨ちゃん。



ーーーカサッ



 音のした方へと視線を向けると、茂みから出てきた奏多が川の方を見つめながら立っている。
 そんな姿を、ただ黙って静かに見つめる。

 ーーすると、突然動きをみせた奏多は、クルリと身体の向きを変えるとそのまま歩き始めた。
 あの光景を見ていたはずの奏多が、何故か川に背を向けてこちらに向かって歩みを進める。

 俺は隠れていた場所からほんの少しだけ位置を変えると、真横を通り過ぎてゆく奏多の顔をチラリと盗み見た。

 するとーー
 その顔は、全くの無表情だった。


「…………。へぇ〜……」


 それを確認した俺は、小さく声を漏らすと口元に弧を描いた。

 再び川へと視線を戻してみると、優雨ちゃんは未だに岩場の上で立ち尽くしている。
 自分がしでかした事とはいえ、その衝撃に放心してしまったのだろう。


「……ご苦労様、優雨ちゃん」


 そんな優雨ちゃんに向けて小さく呟くと、俺は愉悦した微笑みを漏らしたのだったーー





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