時には風になって、花になって。
この女に自分が鬼だと伝えても、そこまで驚きはされなかった。
それどころか「初めて見たときは月から舞い降りた菩薩様だと思った」なんて笑って返された程だ。
そんな女だからこそ、紅覇も気楽にサヤのことを話せるのかもしれない。
「長松っちゃん!ちょいと頼まれてくれるか!」
「へい、いま行くよ。紅覇、そろそろサヤを迎えに行ってやんな」
「…言われなくとも」
サヤには村の川で魚を採って来いと言っていた。
もう15になる娘。
一刻もかからない間にも数匹の魚は仕留めているはずだろう。
「…採れてないのか」
珍しい。
サヤが一匹も魚を仕留めれていなかった。
それどころか川の水に足を取られでもしたのか。
全身びしょ濡れだ。
(長松さんとは、終わったの)
「あぁ」
(なに、…話してたの)
「…別に言うまでもない」
揺れた瞳が合わさった。
背丈も首をそこまで下ろさなくとも見れるように狭まった。
サヤもまた、少し傾けただけで紅覇を見つけられる。