時には風になって、花になって。
『…お前は誰かとするのか』
『え…?』
『愛し合う男と…するのか、それを』
何故そんなことを口走っているのか、紅覇は自分が不思議でならなかった。
どんな顔をして、どんな声で、目の前の女を見つめているだろう。
『…紅覇は?したい?』
『……お前は、…ズルいな』
この女となら───紅覇はそう思いかけた。
そっと、青年は女の頬へと手を伸ばす。
『どう?人間の肌は』
『…柔らかく…温かい』
『そうでしょ?でもね、紅覇も同じよ?』
喰らい尽くしてしまいたい───…。
その感情は普通の鬼が人間に対して思うものとは少し違った。
『ねぇ紅覇っ!』
そんな空気を吹き飛ばすように、女は音色を変えて無邪気に放つ。
『…また、ここで待ってて。次会ったとき、あなたに伝えたいことがあるの…!』
私もある。
お前を誰にも渡したくない、と。
鬼である己へと笑いかけてくれた初めての人間。
それが紅覇にとってどんなにかけがえのない存在か。
『約束よっ!忘れたら承知しないんだからっ!』
それが最後になるとは知らずに。
青年は初めて、ウタの前で笑って見せた。
『もうその女には会うな、紅覇』
『何故ですか』
『分からんのか。お前は鬼だ、羅生門の息子なのだ。身の程を弁えろと言っている』