時には風になって、花になって。
人間と鬼は分かり合える。
人間はそこまで弱くはない。
鬼にないものをたくさん持っている。
そう言ったところで、羅生門には伝わるわけがなかった。
『…紅覇よ、まさか貴様。その娘を好いているのではないな?』
なにをする気だ。
薄々、青年には気づいていた。
この男は必ずや何かをする、と。
それは確実に自分もウタをも引き剥がすだろうと。
『嗤わせるな愚息よ。お前は一族の恥さらしだ。人も殺せぬ、覇者にもなれぬ。
───あぁそうか。殺せば良いのだ、お前がその娘を』
そうだそうだ、それがいいと羅生門は面白可笑しく笑う。
そのとき、紅覇は気づいた。
『殺せ』と放った父の言葉に、自分があの娘に対して抱く感情が。
『…い……です、』
『…なんだ?』
『愛して何が悪いのです……!!!』
初めてだった。
父に逆らったのは。
そしてここまで声を荒げたのは。
私はあの女を愛しているのか…。
『…何故だ、ウタ』
雨の日も風の日も、嵐の日も。
青年はただ1人の女を待った。
何故、来ない───?
それから何年、何百と待っても女は現れなかった。