時には風になって、花になって。




それは鬼として生きる自分の隣に立つのならそれくらいは出来るようになれ、という意味か。

それとも私の手をわざわざ煩わせるな、の方か。



(採れた…!!)



それでもサヤにとっては慣れたもの。
独りで生きていたときから身に付いていた。

どちらの理由にせよ、一緒に過ごす存在が出来た喜びはとても大きなものだった。



「あいつじゃねぇか?」


「───…成る程」



気付いたときには遅かった。

ちゃぷんっと、手にしていた魚が再び川へ戻ってしまう。


そして次に捕らわれたのは自分だった。



「あの紅覇がこんな小娘を傍に置くとはね。あいつも相変わらず落ちぶれたもんだ」


「すぐに羅生門様に知らせる」



バタバタと暴れても声が出ないからこそ、静かだった。



(どうしてサヤは声が出ないの……?)



生まれたときから出なかったらしい、己の音。



『赤子の癖に泣き声すら上げないなんて不気味ったらありゃしねぇ』


『きっと呪われた子よ。妖怪に取り憑かれてるのね』



かつてサヤが村人から言われていた言葉だった。



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