時には風になって、花になって。
(くれは、ありがとう、)
少女にとって、その男は鬼とは思えなかった。
真紅の髪は珍しいが、その白い肌によく似合っていたから。
その狩衣だって纏う雰囲気だって。
もしかすれば位の高い貴族の1人ではないのかと。
中性的な整った顔立ちは親しみを持ちやすかった。
「少し大きかったか。まぁ人間などすぐに成長するだろう」
新しいべべをくれた紅覇。
サヤは嬉しそうに笑ってお礼を言った。
こんなにも高価な着物を与えられたのは初めてだ。
血の匂いをさせていると狙われる───と、青年は言っていたから用意してくれたのだろうけれど。
「あまり遠くへは行ってくれるな。流されたら面倒だ」
コクコクとサヤは頷く。
数日前に紅覇が狩ってきてくれた大きな狼1頭は、サヤの身体にはどうやら合わなかったようで。
口にすることすら出来ず、匂いを嗅いだだけで気分を害したのか腹を下してしまった。
それ以降、「お前は魚の方がいいのか」と納得した青年は肉を狩ることをしなくなった。
(あっ、鮎だ…!)
山から流れる川へと下って、浅瀬に足を付ける。
魚は自分で採れ───と紅覇は少女に命令をした。