時には風になって、花になって。




(サヤ、ぜんぶ、嫌いだった)



クイッと袖が引かれる。


冬も、春も、夏も、秋もサヤは嫌いだった───。

そう言う少女の瞳は初めて見るものだった。


いつかに『悪い奴に親を殺された』と言っていた時と似てるようで、少し違う。



(でも、今はぜんぶ好き)



くれはが居るから───。


この娘は私が居なくなったらどうするのだろう。

どうなるのだろう。


ずっと一緒かは分からない。

天命の別れの前にも、同じことがあるかもしれない。



「…また背が伸びたな」


(うんっ)



この娘より先に死にたいなど、鬼らしくないことを思った。

この小さな子が女になり大人になり、寿命が終わってゆく様を黙って見届けられる程、己は強くはない。


お前の笑顔に見送られたい。
笑っていないお前を見たくはない。

愚かで、弱く、とても馬鹿げた思想だ。



(くれは、泣かないでくれは)



少女は背伸びをして青年の頬に流れる涙を拭う。


泣いているのか…?

───…私は、泣いているのか。



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