メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・あんたさぁ、こんなんで私に恩を売ったと思わないでよね。そもそもヒールが折れたのはあんたが私をイラつかせたのが原因なんだから。この靴お気に入りだったのに。」

長過ぎる足を組んで木製の椅子に座りながら、玲美さんは私から目を逸らして居心地悪そうに言った。その声に先程までの勢いはない。

彼女の折れてしまったヒールを応急処置として瞬間接着剤でくっつけて乾かしている間、カフェスペースでハーブティーを飲んでもらっていた。

「そんなこと・・・。」

思ってないです、という言葉は彼女の次の言葉に遮られた。

「ふん。そんないかにも『純粋無垢です。』みたいな顔して、どうせ中身は真っ黒なのよ。あんたみたいなのが一番悪い女なんだから。あざといっていうかさ。男はバカだから騙されるんだよね。」

───そうなのかな、私って悪い女なんだろうか・・・。そういう自覚がないからこそそうなのかもしれない。

「よろしかったら召し上がってください。サービスです。」

私が言葉に詰まっていると、店長がやって来て人気商品のステンドグラスクッキーが乗ったお皿を玲美さんの前に置いた。

「あ、かわいい・・・。」

玲美さんはツンとした表情を一瞬緩めてからハッとしてまた引き締め、気まずそうに店長の方を少し見て『どうも・・・。』と言った。どんな表情も絵になっていて思わず見とれてしまう。

「杏花ちゃん、俺少し裏にいるから、レジ頼むね。」

「はい。じゃ、私行きますので・・・。」

「乾いたら適当に帰るわよ。」

彼女は携帯を取り出していじりながらこちらを見ずに言った。


それから接客をしているうちにいつの間にか玲美さんの姿はなくなっていた。テーブルの上に乗ったハーブティーのカップとクッキーのお皿は綺麗に空になっていて、テーブルナプキンが見事なバラの形に折られていた。
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