メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
10月31日。ハロウィンシーズンも今日で終わり。すぐに忙しいけれど華やかでわくわくするクリスマスシーズンが始まる。

打ち上げとハロウィンパーティーとクリスマスシーズンに向けた決起会を兼ねて、閉店後魔女の仮装をしたまま、ドラキュラの衣装を着た店長とカボチャ姿の竹中さんと一緒にスタッフルームの座敷で軽く打ち上げをした。

片付けが終わり、竹中さんはこれから同棲している彼女とハロウィンパーティーだと言って足早に帰って行った。

お菓子をもらいに来る近所の子供達やお買い物をされたお客様に配ったパンプキンパイが余って1つもらったので、個人ロッカーを開けリュックにしまおうとしていると店長に声をかけられた。

「そうだ、杏花ちゃん、相談なんだけど・・・あ~竹中くんにも聞けばよかったな。」

「何ですか?」

「このロッカーなんだけどさ、撤去してもいいかな?」

お酒で顔を赤くした店長が大きなロッカーを指差して言う。通常は皆個人ロッカーで事足りていて、このロッカーは荷物が多い時等にたまに使うくらいなので普段は何も入っていなかった。

「私ここに来てから一回も使ったことないし、もし荷物が入らないことがあったら座敷の隅にでも置かせてもらうかと。」

「そうだよね、ありがと。年末の大掃除シーズンになる前に片付けちゃいたくてさ。処分してくれる業者も混むじゃない?また皆に会ったら聞いてみるよ。」

「それにしても大きいロッカーですよね。」

「うん。杏花ちゃん住めるんじゃない?ちょっと入ってみたら?」

ロッカーに入ってみるとまだまだ余裕があった。

「はは、俺も全然入れそう。」

そう言って店長もロッカーに入ってきた。

「我が家へようこそ、ドラキュラさん。」

「はは、お邪魔します、魔女さん。素敵なお宅ですね。」

店長がくすくす笑いながら扉を閉めるとロッカーが個室になった。

「電気つけたらよさそう。」

「え?杏花ちゃん気に入っちゃった?じゃあ、撤去するのやめる?」

「どうしよう・・・。」

「え?ほんとに!?」

暗いロッカーの中で二人で顔を見合わせて笑った。あの食事の日以降、店長との間に変わったことはなくホッとしていた。

その時外からの従業員通用口のドアが開く音がした。
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