メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「もー、忘れ物多過ぎ。しっかり確認してから出なさいよ。」

「へいへい。」

女性の声に返答しているのは竹中さんだ。きっと同期で別店舗で働いているという彼女さんだろう。

外に出る為にロッカーを開けようとすると店長がガッと強い力で私の手を掴んだ。驚いて彼を見上げる。ロッカー上部に開いた複数の穴から入る光を頼りに伺い見たその表情からは何を考えているのか読み取ることができなくて戸惑う。ロッカー内でそんなことが起きているとは(つゆ)知らず、二人の会話は続く。

「本当にわかってるの?」

「だってさ・・・早く莉那(りな)に会いたかったんだから仕方ないだろ。」

竹中さんの声が甘さを帯びる。初めて聞く声だ。

「・・・!?もう、そういうこと言ったら許されると思って・・・。」

「・・・嬉しいくせに。」

衣擦れの音がする。彼女さんを抱きしめたのかもしれない。

しばらく無音の後濡れたものが激しくぶつかるような音と吐息が漏れる音、それから女性の声が聞こえてきた。

「・・・ね、だめ、こんなとこで・・・高園さんやバイトの子、まだいるんでしょ・・・。」

「店の方にいるんだろうからドア開いたらすぐ離れればいいだろ・・・やっぱり同棲してると家ばかりになっちゃうじゃん?だからすげー興奮する。職場ですぐ近くに上司達がいるなんてめっちゃスリルあるし。」

ロッカーの扉がガタッと鳴りビクッとする。この向こう側にいるのだろうか。

「・・・ぁ、や、だめ・・・。ん・・・。」

扉の向こう側では熱い触れ合いが続いているようだった。顔がどんどん熱くなってくる。すごくいけないことをしているようで胸が騒がしい。思わず手の中のパンプキンパイを握りしめてしまっていた。
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