メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
昨日───あのハロウィンの夜からあっという間に1ヶ月が過ぎた11月の終わり───爽ちゃんの結婚祝いの時計が完成した。

あの夜、暖人が近づいてきたので目を閉じ、唇と唇が触れるのをドキドキしながら待った。しかし彼は思い直したように『・・・悪いけど、今日は帰ってくれないか?タクシー呼ぶから。』と言った。

タクシーの中でロリポップを舐めながら帰った。いつのまにか目に涙が溜まっていて、車窓を流れる夜の街が滲んで見えた。

帰るように言われた時、嫌、帰りたくない、もっと触れて欲しい、という感情が私を支配していた。ロリポップ越しではなく直接暖人に触れたかった。

その気持ちはホテルで寝ている彼にキスをしてしまった時も、玲央さんのアトリエで彼がキスマークをつけてくれた時もあったもので、さらに先に進めなかったことに私は歯がゆさを感じていた。まるで高まった気持ちが割れないシャボン玉のように宙に浮いているかのようだった。

そんな自分が私は怖かった。

私は冒険はしない。いつも同じブランドの服、同じ髪型、お茶をするのだって大学のすぐ近くのカフェか、爽ちゃんが大学時代にバイトしていた大正ロマンをテーマにした喫茶店か、両親の思い出のフラワーデザイナーとお花屋さんがコラボしたカフェのどれかで、新規開拓はしない。大学生になりバイトを探す時も、高校生から足繁く通っていた雑貨屋さんだから今のお店の求人に応募し、ずっとそこで働いてきたのだ。

ハンドメイドだってお母さんが色々な分野に挑戦するからそれについていっているだけだ。展示場でのハンドメイドイベントだってずっと興味はあったけれど、暖人と出会うまでは挑戦する勇気がなかった。

外泊だって前もって約束して爽ちゃんの家に泊まった経験しかない。どこでどんなにお酒を飲んでいても絶対に終電までには帰宅していた。

いつも心に余裕を持ってゆったりと平穏な日々を送りたい、それが私が望む人生だったし、刺激なんて欲しくなかったはずだ。

知らない人と関わったり、一人でよく知らないところに行ったり、初めての事をしたり・・・そういう緊張する行動は極力避けたかったし、予定外の行動をとるなんて今までの私には有り得ないことだった。
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