メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
居酒屋が入っている雑居ビルから駅までは距離があったし、彼───暖人(はるひと)さん───の大切な作品達が入ったキャリーケースがあったからタクシーに乗った。雨は降りる前に止んでいて、空に七色の橋が二重にかかっていたので思わず立ち止まって見とれた。

「こんなくっきりした虹見たの初めて。すごく綺麗な弧だし。しかもダブルレインボーなんて、何かいいことありそう。」

「・・・おお。」

「虹って本当は円なんだよね。地平線の下は見えないからアーチ状に見えて橋みたいで素敵だけど、(まる)い虹も見てみたいな。」

「円い虹、か。」

「でも自然に見るには色々と条件が揃わないと駄目みたい。お庭の水まき用のホースで人工的に作ることは出来るみたいだけど。」

「・・・円い虹が見られる時計・・・いいかもな。」

「え?素敵・・・それってどういう時計?文字盤の中で雨が降るとか?」

「・・・作る時が来たら考える。いつまでもそんなとこで立ち止まってるなよ。通行の邪魔だろ。」

彼は私の腕を乱暴に引っ張った。


電車を降りて駅からバスに乗り、近くのスーバーで買い物をしてから暖人さんのマンションに向かう。偶然にも私のお父さんとお母さんが昔住んでいたと言っていた辺りだった。

「・・・ここだよ。」

マンションの駐車場の前に着くと彼は何故か恥ずかしそうに言う。

「素敵・・・。」

思わず目を見張る。駐車場の向こうに建っていたのは、丸みを帯びた、かわいらしいと言ってもよいような、リゾート地にある小さなホテルのようなマンションだった。
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