メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「この答えでいいのか・・・自信がないんです。」

彩木さんは動きを止め、ビジネスの表情から以前契約の為にここに来た時、エレベーターまで見送ってくれた際、娘───杏花───がハンドメイドイベントに出ると話してくれた時と同じ雰囲気になった。

「答えは探したって見つかりません。一瞬一瞬を大切にして過ごす中で今手に持っているものが答えです。絶対に正しいと自信が持てる答えが出るまでなんて待ってたら、何も出来ません。」

俺の意味不明な独り言のような質問に彩木さんは心を込めて答えてくれた。彼女の顔を見つめると、杏花の顔が浮かんでくる。

「もし、想いが届いたとしても辛い思いをさせるかもしれない。もちろんそんな思いをさせたくはないけど・・・。」

「どちらも大切なら、諦められないのなら、両方手に入れようとしてみてはいかがですか?チーズケーキとモンブラン、両方食べたいのなら食べていいと思いますよ。」

思わずじっと見つめてしまうと、彼女はまるで全てを知った上で俺を包み込んでくれるような優しい視線を返してくれた。

「よく言われることですが人は一人で生きているわけではありません。誰かの人生と交わることで変化が生まれて、新しい模様が描かれる。それは自分一人では決して描くことが出来ないものです。そのことで辛い思いをするかもしれません。でも辛いとか大変(イコール)不幸ではないのですよ。幸せの味は必ずしも甘くはありません。」

「・・・!」

彩木さんはそう言うと立ち上がった。

「・・・申し訳ありませんが、この後会議が入っていますので。」

「本当に申し訳ありませんでした。」

俺も立ち上がって頭を下げると出口を出る彼女に続いた。
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