メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「奪う?何を?」

「・・・お前から、さっき買った、さいて食べるチーズをさく権利を剥奪(はくだつ)する。」

その言葉に私はガーンとショックを受けた。

「そんな・・・お酒飲みながら、チーズを細~くさきつつチビチビ食べるのが楽しいのに・・・。」

「だめ。俺が目の前でさいて見せびらかしてやるから指くわえて見てろ。」

冷たい目線で言うけれど彼はなんだか楽しそうだった。私まで楽しくなって思わず笑ってしまう。すると彼は照れたように私の顎を解放して荷物を拾い始めた。

「このマンションだいぶ古いから、家賃相当安いんだよ。出来た頃はけっこういいマンションだったらしいけど。」

「素敵だけどなぁ。社会人になってお部屋空いてたら引っ越してきたいくらい。」

リビングに向かう彼の後をついて行きながら言う。

「まぁ、お前ならここの雰囲気にぴったりだけど・・・ていうか、名前・・・。」

「わぁ、お部屋も素敵。」

アンティークな家具にダークグリーンの観葉植物、おしゃれなランプ類、そしてたくさんの時計。物語に出てくる不思議な時計屋さんみたいだ。

「ここで時計作ってるの?」

「・・・そうだよ。アトリエなんて借りる余裕ないからな。普通だったら寝室にするだろう部屋を作業部屋にしたからこのリビングで寝てる。」

そう言われて見渡すと部屋の隅に布団がぽつんと畳まれていて、なんだか部屋の雰囲気から浮いているのが可愛らしかった。
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