メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・お母さん、私が『友達と出店する。』って言ったから、女の子の友達だと思ったのかも。」

ここは杏花の両親が昔泊まって気に入り、その後も家族で何度も利用しているという老舗のホテルで、お得意様価格で泊まれるからと予約してくれたのだった。

代わりに俺が出店料を払った。客が作品を見やすいようにスペースに余裕を持ちたいという杏花の提案の通りに当初よりだいぶ大きいブースに変更したのだ。でもお得意様価格っていくらなんだ?いいホテルだからそれでも結構な金額なのではないか。彼女の新幹線代も俺が払った方が良かったかもしれない。

「俺、別のホテル探すよ。」

「私はいいよ。」

携帯を取り出して調べようとすると杏花が言った。

「は?」

「洋室と和室、(ふすま)で仕切れるし、前に暖人の家泊めてもらったこともあるし。」

「でもなぁ・・・。」

「ここ、ご飯も美味しいし、露天風呂も素敵だし、お庭に足湯もあるんだよ。せっかくだし一緒に楽しもうよ。」

彼女はごく自然な調子でそう言った。変に意識しているのは俺だけなんだろうか。まあ、こいつが興味があるのは俺ではなく俺が作る時計だけだろうしな。俺が男だろうと女だろうとロボットだろうと宇宙人だろうとこいつにとってはどうでもいいんだろう。

なんだか悔しくて『そうだな。』と頷いた。
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