メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「夜の海ってどこから海になってるかわからなくてちょっと怖いよね。」

夕食後、杏花が『海で花火しようよ。ここ、バケツ貸してくれるんだ。』と大きな手持ち花火のセットを取り出した。『二人でその量!?』と思ったが、目の前に出されたら嫌というわけにもいかずフロントでバケツを借りてライターを買い砂浜までやってきた。

「俺は結構好きだけどな、夜の海。昼の海は綺麗だけどなんか眩しすぎるっていうかさ。落ち込んでる時に見たら、元気出さなきゃって焦るっていうか。夜の海の方が、ただただ心が静かに洗われていく気がして。」

波の音が耳を行ったり来たりして、塩分を含んだ風が全身を包み込んでいく。心が少しずつ癒されていくようだ。

「そっか。そう思うと怖くないかも。」

杏花は目をつぶって波の音に耳を傾けていた。彼女は今何を考えているのだろう。

風が吹いて杏花の唇に長い髪の毛が一束くっついた。髪を払うことなくそのまま目をつぶっている。

───いつまで心を洗ってるつもりだよ。お前の心はそのまんまでやたらと綺麗だろ・・・ん?そう言えばこいつは夜の海に似てるかもしれない。一緒にいると心が綺麗になる気がする。

どうしても唇に目が吸い寄せられてしまう。彼女が目をつぶっているからいくら見ていても大丈夫だし・・・。

誰もいない暗い海、波の音、目を閉じた彼女。恋人同士か両想いの二人だったら絶好のシチュエーションだ。
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