フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約


「逃げるな」

ーーえ?

意外な言葉に、足を止めた。


まったく見ず知らずの他人のはず。なのに、どうしてそんな言葉が出るのかわからずに、私は体ごと彼に向き直った。

ーーどうして、そんなことを言うんですか?

本来なら、そう問い詰めたいのに。私の口は言葉を紡いでくれない。臆病な、弱気な自分が頭をもたげてしまう。そして、すぐに視線が下がっていった。

ただ黙ってうつむく私にしびれを切らしたのか、彼はこう言った。


「ーーアンタさ、今まであの女に守られてきたんだろ。で、自分じゃ何も考えずに生きてきた」
「あの女って……」
「香澄って言ってたアンタを裏切った女」
「!!」

あまりと言えばあまりの言いぐさに、思わずカッとなって言い返した。

「香澄は裏切ってなんてない!」
「本当に?」

カツン、と足音が響く。きっと高いハイブランドの革靴だろう。けど、私は負けたくなくて彼をキッと見返す。

「私が勝手に付き合ってると思い込んでただけ。実際は和彦は恋人でもなんでもなかったの!それに、香澄には和彦と付き合ってるとは言ってなかった。回りにも明かさなかったし、相談する時も名前は明かさなかったんだもの。彼女は知らなかったの。だから、裏切りなんてないわ!」
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