フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約

「おい」

誰もいないと思ったのに、いきなり近くから声が聞こえて心臓が跳ねた。

いいえ、それよりもーー

この時、どうして振り返ったのかと自分でも不思議だった。
普通なら泣き顔なんてみっともないし恥ずかしいから、他人に見せないためすぐ離れるべきだったのに。

なぜ、だろう?

なのにーー私はその声を聞いた瞬間、まるで反射するようにそちらを見ていた。

そして、さっきと違う意味で心臓が跳ねた。

今どき珍しいくらいの濡れたような漆黒の髪をきちんと整え、全身を質のいいブランドスーツで身を固めた、私と同い年くらいの男性。女性では平均的な身長の私が見上げるくらいの長身で、決してひ弱には見えない細身ながら引き締まった体つき。例えるなら豹のような。
私を見る切れ長の瞳は、不思議なことに紅く見える。
それが収まる顔も鼻筋が通った、東洋的な美形。まるでモデルか芸能人と見紛うような整った容貌だった。

対する私は、精一杯お洒落をしたとはいえ地味な顔立ちにまったく女性らしくない痩せた体つき。髪はくせ毛だし短めのボブスタイル。香澄は可愛いと褒めてくれたけど、自分でも貧相なのはわかってる。
しかも、身に付けているのはショッピングモールのアウトレットセールで買った安物。付けたアクセサリーはイミテーション。

こんないかにもセレブそうな男性の視線に耐えられなくなって、ペコリと頭を下げてすぐに離れようと足を踏み出した。

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