フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
「春日井くん、悪いが王女殿下にお付き合いしなさい。後は直帰でいいから」
社長御自らの業務命令なんて、いち平社員に過ぎない私に逆らえるはずもなく。
黒服にぐるりと囲まれた私は、そのままエレベーターに乗せられる。
あの、子牛の有名な歌が頭に響くのは気のせいじゃない……。
で、到着したのは同じビル内の56F。今まで足を運んだこともない、会員制のVIPラウンジだった。
店内に足を踏み入れた途端、イメージした通りのヨーロッパのお城の内部のような、大理石の壁と黄金をふんだんに使った装飾。赤いふかふかの絨毯。重そうなキラキラ光るシャンデリアに豪奢な調度品が惜し気もなく置かれて。
いち庶民には場違い過ぎて、クラクラしてきた。
王女様は臆することなく先を進み、毛皮のコートを黒服の男性に預ける。
「いくわよ」
キラキラしたドレスをまとった王女様は、この光のなかで眩いほどに輝いてる。本当にお似合いだった。
うちの会社に制服はないけれど、楽だからレディーススーツ系を着てる私は気後れするしかない。
やがて、圧倒的な存在感のソファに座り足を組んだ王女様は、私に命じた。
「そこに座りなさい」
「あ、はい」
命令し慣れた声に、小市民は逆らえませんよ。