フラれ女子と秘密の王子さまの恋愛契約
「……悪かったよ」
痛めたのか顔を真っ赤にした和彦が、不貞腐れたように謝罪してきたけど。全然謝意を感じない、ぞんざいな謝りかただった。
「和彦、何よその態度! 本当に謝る気があるわけ?」
「……謝る必要なんかあるのかよ!」
遂に和彦まで怒り出して、大喧嘩を始めてしまった。自分が悪いとは思っていない和彦と、気の強い香澄。どちらも譲るはずもなく、遂には香澄が和彦の頬を打った。
「こんな……ここまで腐ってるなんて思わなかった。もう、呆れたわ……あんたとはやっていけない!」
バッグを持った香澄はスックと立ち上がると、和彦を涙ぐみながら睨み付けた。
「おい……待てよ!冗談だろ?」
和彦もたちの悪い冗談と思ったか、半笑いで香澄を見上げたけど。香澄は何も答えずに踵を返した。
「お、おい……!子どもは……どうすんだ。父親は俺だろ!」
「あんたなんか、もう必要ない。お父様に頭を下げて、ひとりで産んで育てるわ」
キッパリ言いはなった香澄は、もう決意したようだった。
「さくら、ごめんね。せっかく楽しい時間を邪魔した上に、気分悪くさせちゃって……真宮さんも含めて、いつかお詫びさせてもらうわね」
「なら、ひとつ貸しだな」
レイがなぜか香澄にそう言い、香澄はそうね、と微笑んだ。
「ええ、わたしに出来ることがあればなんでも言ってちょうだい」
「ああ、きっと近いうちに頼むことになるだろう。あんたに相応しい役割を」
「ふふ、楽しみにしてるわ」
香澄はそう朗らかに笑い、和彦を完全にスルーして颯爽とお店を出ていく。和彦は追いかけたけど……きっともう、修復は無理だろう。