あざといきみの誘惑は
「ない、です」
出た言葉は、滑稽にも震えていた。
あとで振り返ったら自分自身でさえ笑えてしまうほどに、ふるえていた。
……へん、だな。
ある程度の覚悟を持って、ここに手を出したハズなのに。
ハハ。私、もしかして、まちがえた?
そんな私を嘲笑うかのように、美しすぎる顔を持つ男は質問を始める。
「……なら、ツボミ、っていう名前は、ほんと?」
「……い、え。本名は、ライ。穂村、蕾、です」
膝に置いた手が、ふるえている。
手汗もかいて、じっとりとして気持ち悪い。
四方からの視線に、耐えられそうにない。
「……そ。じゃあ、ライ。きみはルクソンのスパイで、現役姫、ってところ、合ってる?」
疑問系になっているけれど、確信めいた言い方に、すべてバレているのだと察する。
ああ、間違えた。まちがえたまちがえたまちがえた。
こんな族に、手を出すんじゃなかった。