バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 看護師さんが処置を終えたところで、お医者さんが入ってきた。

 グレイヘアに眼鏡の似合う先生だ。

「外科部長の佐山です。具合はいかがですか」

 なんだかいきなり偉い先生のようだ。

「はい、今はなんともないと思います」

「そうですか」とうなずきながらタブレットを私の方に向けた。「昨夜こちらの病院に搬送されてから、MRIとCTをとったんですが、特に異常はありませんでした」

 タブレットには二つの画面が分割表示されている。

 先生がゆっくりと指をスライドさせていくと、連続して画像が変化していく。

 と、途中で先生が手を止めて、少しだけ画像を戻した。

「強いて言えば、ここのところなんですが、膵臓の形が少し変わってましてね。普通は胃の裏にあるんですけども、Uの字形になって横の方に伸びてるんですよ」

「それはどういう病気なんですか」

「病気ではなく、単に、珍しい形というだけですね。年に一、二症例くらいは見かけます。特にそれが何かの病気のリスクであるというわけではありません」

 珍しいと言われても、なんとも受け止めようのない話だ。

「血液検査の結果も特に異常は見られません」

 先生は事実を淡々と述べるばかりだった。

「じゃあ、原因はなんだったんでしょうか」

「まわりにいた人の話では人とぶつかって倒れたということで、その衝撃によるショックが原因でしょうけど、あとはストレスや過労ですかね。何か思い当たることとかありますか。仕事、人間関係とか。精神的につらい出来事があったとか」

 そう言われても、今の会社は自分には恵まれすぎているくらいだ。

 一応思い当たることと言えば、社長と話して緊張してたり、慣れない場所で普段やっていない仕事を手伝ったことだろうか。

 人込みのせいで少しぼんやりしていたし、疲れを感じていたのも事実だ。

 ただ、もう回復しているのだから、細かく説明しなくてもいいかと思って言わないでおくことにした。

 とにかくここから脱出しなくちゃ。

「いえ、特にありません」

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