バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
「精算はどうしたらいいんでしょうか」

「看護師が来ますから、少し待ってくださいね」

「お世話になりました。ありがとうございました」

「いいえ、なんでもなければそれが一番ですよ」

 先生と入れ替わりに病室に来た看護師さんは何も持っていなかった。

「じゃあ、着替えたらそのまま退院です。忘れ物はないようにしてくださいね」

「手続きとか、支払いは?」

「もう済んでるので大丈夫ですよ」

 え!?

 どういうこと?

 お金払ってませんけど。

 看護師さんが布団を畳みながらさらりと言う。

「請求書は社長さんの方へ回すように言われてるみたいですから、心配しなくていいんじゃないですか」

 いや、あの、かえって心配なんですけど。

 会社に迷惑かけて、社長にもお金を払わせちゃったら、私、もう居場所がなくなっちゃう。

 よけいな考え事をしている私に看護師さんが思いがけないことを言った。

「費用のことよりも、社長さんのおかげで怪我がなくて済んだことの方を感謝したらいいんじゃないですか」

「どういうことですか?」

「倒れるあなたを社長さんがとっさに抱きかかえたから、頭も打たなくて済んだんだそうですよ。ここに運ばれたときも、ずっと付き添っていらっしゃったんだし」

「え、そうだったんですか!?」

 だから、最後の記憶が社長の顔だったのか。

 あれは幻ではなかったんだ。

 看護師さんが腰に手を当てて私を見ていた。

「着替えを済ませてくださいな。院内着は回収しますから」

「あ、すみません」

 ぼんやりしている場合ではなかった。

 クローゼットに収納されていたスーツにあわてて着替える。

 気分がモヤモヤしたまま私は病院を出た。

 体の具合はなんともないのにな。

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