バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました

   ◇

 週末のベリーヒルズビレッジのビジネスエリアは閑散としていた。

 そういえば、土日にここに来たことってなかったな。

 オフィスビル周辺の緑地公園では、レジデンス棟のセレブ居住者たちが犬を散歩させている。

 やたらと脚が長くてスキップするような歩き方の犬とか、昭和のスターの衣装みたいに長い毛をなびかせた犬とか、どれも見たことのない種類のものばかりだ。

 ベンチに腰掛けて髪の毛を整え直しながら、行き交う犬たちをしばらく眺めてみた。

 色違いのトイプードルを三匹つれた若い親子連れが通りかかる。

 うちの社長と同じくらいの年頃の若いお父さんと年少さんくらいの男の子だ。

 こんな若さでこんな超高級マンションに住めるなんて、いったい何をやっている人なんだろうか。

 やっぱりベンチャー企業か何かの社長さんなんだろうか。

 男の子がジャンプするのに合わせて犬たちも跳ねている。

 かわいいなと思ってみていたら、一匹が私に向かって立ち上がってフリフリ踊り出した。

「かわいいですね」と、思わず声をかけてしまった。

 すると、若いお父さんから微笑みながら思いがけないことを言われてしまった。

「就職活動ですか」

 え?

 あ、そうか、私だけスーツ姿なんだ。

 でも、このベリーヒルズビレッジで働いてる人には見えないらしい。

 しかも、就活中って、新人以下ですか。

「いえ、あそこで働いてます」と、私はオフィス棟のなるべく上の方を指さした。

 ああ、そうなんですか、とそれ以上話題が広がることもなく微妙な空気が流れてしまった。

「おしごとがんばってね」と男の子にまでつぶらな瞳で見上げられてしまう。

「ありがとう」

 立ち上がりながらバイバイと手を振って、ふっとため息をつく。

 就職活動か。

 やっぱり私って、戦力外なのかな。

 自覚はあったけど、やっぱりヘコむなあ。

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