バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
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他の社員達と一緒に台車を押しながらオフィスビルを出る。
高級セダンの行き交う通りを隔てたすぐ目の前にはベリヒル・ショッピングモールがある。
日本と世界を結ぶ文化交流拠点をコンセプトに、京都西陣の呉服店や三つ星を獲得したフランス人シェフによる寿司レストランなどが出店している。
これまでデパートへの出店を拒んでいた老舗和菓子店が初出店したのも話題になったばかりだ。
ベリヒルモールの路面店は全てラグジュアリー・ブランドで、街路樹の緑が映るウインドウに並んだ最新ファッションのディスプレイが華やかだ。
私には縁のない世界とはいえ、台車を押しながらも、つい目がいってしまう。
ここの美術館でうちの会社が協賛するイタリア絵画展が開催されることになっていて、プレオープンを兼ねたレセプションが今夜おこなわれるのだそうだ。
文部科学大臣やイタリア大使をはじめとした各界のセレブ達を招いたパーティーなんて、どんな雰囲気なのかすら想像もつかない。
場違いなことをして恥をかいたらどうしよう。
ゲストに失礼なことをしてしまったら、山中先輩にも迷惑をかけてしまう。
坂道でもないのに何だか急に台車が重く感じられる。
道を渡ったところで正面入り口へ向かおうとして、矢島さんに呼び止められる。
「搬入口は裏だよ」
それはそうか。
腰を入れて台車の向きを変えているうちに、みんなと距離が離れてしまった。
『七海はさ、もっと自信を持ちなよ』
前の会社で新人だったころから、山中先輩にはよくそう言われてきた。
いつもお手本となる先輩の姿を見ているのに、私はそれに近づくどころか、どんどん背中が遠くなるような気がしてしまう。
私は突発的なことに対応するのが苦手だ。
指示されたことをちゃんとやるだけで精一杯だ。
学生時代は、真面目さが取り柄で、求められたことに対しては努力して常に結果を出していたから学校での成績は良かった。
『七海の欠点は居眠りだけだよね』
同級生たちにはそんなふうに言われていた。
学校という場所では、正解の決まっていることを学び、覚え、テストでその通りに答えればほめられた。
自分の意見を言う必要はないし、よけいな主張はかえってマイナスになる。
言われたとおりにできたかどうか、それが学校では絶対だった。
でも、社会に出ると、そんなことはできて当たり前だ。
求められたこと以外の何かを自分で考えていかなければならない。
私にはそれが分からないのだ。