バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
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それから私は会社のロッカーに立ち寄って荷物を取ってきたり、ベリヒルモールで先輩たちへのお詫びのお菓子を買ったりしてアパートに帰った。
個人用のスマホに先輩からのメッセージも入っていて、とりあえず退院を報告してお礼を伝えておいた。
日曜日は念のため一日休養にあてた。
というよりも、月曜日の『約束』のことで頭がいっぱいで何も手につかなかったのだ。
狭い部屋のベッドの上で枕を抱えてゴロゴロ、なんて、まさか自分がそんなことをするなんて思ってもみなかった。
月曜の朝は早起きして、というよりもほとんど眠れなくて、いつもよりすいている電車で出社してしまった。
「七海、おはよう、早いね」
総務部のセルフカフェで目覚まし代わりの苦いコーヒーを飲んでいたら、先輩がやってきた。
「おはようございます、先輩。どうしたんですか?」
「顔を見に来たのよ。本当に大丈夫?」
「ええ、もうなんともないですよ」
「なら良かった」
私は用意しておいた焼き菓子を先輩に渡した。
「じゃあ、私もコーヒーもらおうかな」
お菓子を食べながら先輩が、私が倒れたときの状況や、その後のパーティーのことを一通り話してくれた。
「社長がすぐに担架を持ってこさせてね。ベリヒル総合病院に直接電話して入院の手配までしてくれたのよ」
「そうだったんですか」
「ものすごく心配そうで、あらためて社員思いのいい社長だなって思っちゃった」
その社長にケーキをごちそうになったなんて言い出しにくかった。
「パーティーの方はね、奥様とエマヌエラさんがいろいろお客様を接待してくださったから、まあ、なんとかなったし」
「それは良かったです」
「奥様が昔出てた映画のシーンを二人で再現したりしてね。お客様がど真ん中世代の方々ばかりだったから盛り上がっちゃって」
「そんなことしてたんですか」
「イタリアの映画祭でグランプリを取った作品とかで、エマヌエラさんも大好きな作品だったらしくて、日本語のセリフ完コピでみんな唖然としてたわよ」
「なんていう映画ですか」
「なんだっけな……、『極道の……なんとか』って言ったかな。なんか『殺し合いはうちらの専売特許じゃけん』とかって啖呵を切るやつ」
それ、今のご時世だとコンプライアンス的にどうなんですかね。