秋を憂い、青に惑う
「…震えてる」
こわい、と訊かれて左右に首を振る。目開けて、って言うからそのまま涙目で和泉を見つめたら、頼りなくて愚かでちっぽけな自分が見えた。
「…絶対逃げられない」
「うん」
「なんでこんなことしたんだろ」
「うん」
「…こんなのばかみたいだ」
頷いて涙が溢れたら、柔らかくて切ない愛しさが触れた。
初めてした和泉とのキスは涙の味がして、そのまま隣にいて、って言うから何もしない約束をして和泉の腕の中で眠る。布団からはみ出た頬に触れる外気は冷たかったけど、その腕の中はあたたかくて、だから余計それが苦しかった。
わたしたちは、ここにいることがいつだって苦しい。
眠れない夜のなかで、和泉がわたしの知らない話をした。
実は許嫁がいること。母親はその子との交際をゴリ押ししてきてて、和泉はそれをずっと断っているのに聞いてくれなかったこと。相手の子もいい子だから、申し訳ない気持ちでどう断ろうかずっと言い出せなかったこと。
今時許嫁なんてあるんだ? って訊いたら、あるよってすこしだけ笑われた。料理がうまくて、優しくて、女の子らしくて、わたしとは程遠いんだって。なんだぁ、全敗じゃん、って笑うのに、泣きながら笑ったのに、和泉はわたしを腕の中に閉じ込めて離さないんだ、いつも。
間違えていて煩わしい、こんなのが青ならとっくにかなぐり捨ててやりたい。いつだって。もうやめちゃいたいね人生、って笑ったら、いつも誰と笑っていても何の色も灯さない和泉の目がわたしを捉えて頷いた。
知ってたんだ。知ってしまった。出会った頃から、知っていた。この目がわたしの前でだけ色を灯していること。呼吸をして、ここにいたこと。見つけたのは、わたしだ。
愚かなのはわたしたちだ。