秋を憂い、青に惑う
「お前みたいな色気ねぇ女に誰が勃つかバーカ」
「悪かったな、知ってるよ色気ないことくらい」
じゃーイチバチでそっちの布団で寝てあげよっか? って訊いたら、返事がなくなった。え、はや。寝たのかな。寝つき良すぎでしょ、わたしは本当に和泉にとって緊張する女にも値しないんか。
「…電気、けすね」
少しだけ気落ちして、立ち上がって電気のコードに手を伸ばす。ふとそこで衝立の向こうの和泉を見たら、
ばっちり起きているその瞳と目があった。
「…いいよ」
「え、」
「こいよ、こっち」
結果電気を消す前に衝立を上にずらされて、形だけの隔たりがなくなった。そのまま手を引かれて寝転んだ和泉の隣に座ったら、むくりと起き上がった和泉にびくっと肩が跳ねる。
そして鼻先をシャンプーの香りが掠めて、わたしの視界を和泉のつむじが占めた。
「…さっきの嘘」
「え」
「本当はちょっと、結構、だいぶ我慢してる」
「…」
「…しんど」
ここ、って胸元を抑えてゆっくり息を吐く和泉の声は、少しだけ震えていた。ここにいるのにまるで消えてしまいそうな体温が頼りなくて、その弱さに惹かれたことを今になって思い出して後悔した。そうさせたのはわたしだった。和泉は、わたしのせいで「真っ当」から外れたのだ。提案したのは彼であっても、あのとき頷かなければこんなことにはならなかった。なんて醜い青さなんだろう。
そのまま前髪が肩に触れ、布団の上に置いた手に和泉の手が重なったから、指先で握り返した。
「…和泉」
「…」
「…きす、くらいだったら、いいよ」
顔が少しだけ持ち上がって、片手がわたしの首に触れる。愛でるみたいに親指で少しだけ撫でてから、端正な顔が至近距離に近付いてきゅ、っと目を閉じる。