秋を憂い、青に惑う
思わず口をついて出た言葉にはっとする。
違う、たぶん気づかれたかったんだ。誰かに知って欲しかった。本当の自分を唯一気付いているであろう片桐に、
言葉にして伝えたかった。
「そっちの方があってるよ」
むくりと起き上がって笑ったその姿に、もう吹っ切れてどけの仕草をする。わはは、と見た目よりずっと無邪気に笑った彼女にそしてこれでしょ、と教科書を渡された。
「目だけじゃ話ができないから、くすねちゃった。そしたら真面目な和泉酒造四代目は戻ってくることをわたしは知っていたのでしたー。偉いでしょ」
「趣味悪いと思う」
「ふふん、もう飽きちゃったんだよ。目で会話するのにね。なんのためにこれじゃあ人間に口があるのかわからないでしょ、和泉くん」
「くんやめろ」
「和泉」
苗字を呼び捨てにされた、たったそれっぽっちのことなのにやっと自分を見つけられた気がして涙が溢れそうになった。ずっとここにいた。ここにいて、こいつだけが見つけた。片桐は気付いてた。だから自分を上書きして笑うおれに変だ、って言ったんだ。
片桐。おれはお前と出逢って、出遭ってしまったと思った。
「和泉、わたし、あなたを見つけたよ」
目がずっともうね、助けてって言ってたね、と切なげに笑われた。
「もう嘘つかなくていいよ。わたしには正直にいたらいい。ずっと辛かった心ごと、わたしちゃんと見つけたから。責任取る、何ができるかわからないけれど、知ってる人が一人いるだけで和泉、たぶんわたしあなたの生きがいになれるでしょ、さすがだよ五十鈴ちゃん」
「…意味不明」
「自画自賛だよ」
わかんないのかよ、と腕を叩かれて、こんな場面を見られたら母はきっと発狂しただろう。骨折れてない!? 大丈夫!? 何処の馬の骨とも知らない小娘が、って癇癪を起こす母を想像したら笑えた。そんなことで生きてるって痛感するなんて間違いなく間違ってるのに、皮肉にも母さんがそうした。世界からどんどん剥がれていくおれを繋ぎ止めたのは、見つけたお前だ。
この体も声も心も全部、こいつのものでいい。いいからさ、片桐。逆にお前の全部おれが引き受けるから。
「…言いたいこと口でちゃんと言って、和泉」