秋を憂い、青に惑う
私は赤のロゴが入った白のパーカーの上にメンズのデニムジャケットを着て、黒のパンツにした。スカートにしねえの、って和泉に聞かれたけど、しない。本当は一着かわいいと思うタイトスカートがあったけど、動きやすい格好が一番だ。
ローファーを脱いで、スニーカーを履いた。店先にこっそり二人でローファーを並べたらまるで心中するみたいに見えたし、まいど、って笑うおじさんにお金を支払ってから飛び出した外で、丸めた制服を燃やして野宿したら今日の夜は越せるんじゃね、とかそんな話をした。
制服を脱ぎ捨てたわたしたちはそこそこ大人に見えて、わたしはともかく、和泉は21歳くらいに見えた。その言葉通りコンビニで買ったライターをこれ見よがしに見せつけてくるから、余計な足枷にもなるそれを燃やすことにする。
徐々に夜に飲み込まれていく世界の果て、薄明かりのドラム缶、ススキで囲まれた畦道の片隅に脱ぎ捨てた制服を突っ込んでライターを打ち込めば、その炎は高々と空に上り詰めていく。
もう二度と戻れない青春を燃やした。
ただでさえ通りすがったら戻ることなんて出来ないのに、あと猶予一年を棒に振ったら涙が出るどころか清々した。
青春なんて、今のわたしたちを惑わすろくでもない青さだ。
「…さすがに夜は越せないね」
「ノリでなんでもこなせるなんて思うもんじゃないな」
若いから何でもできるなんてあれ迷信、って深まる秋のなか、日中との寒暖差にまんまと大ダメージを受けて震える。そもそもラーメン屋に行ったのも日が暮れる寸前で、それから服屋に駆け込んだので20時前、もう時刻は21時を迎えようとしていた。
とっぷり日の暮れた夜の果て、歩き疲れてもうここまでかと諦めかけた矢先に見えた民宿はだから勇者にとっての最高の休養所で、なんならオアシスだったし、見つけた時は二人してあわや抱き合いかけた。
けど、それも束の間の話で。