交錯白黒
そして、緊張による嘔吐、激しい動悸、冷や汗。
ほぼ病人だ。
口内と鼻孔にこびり付いた吐瀉物の不快な臭いを上書きしようとして口に放った錠型の匂い消しのレモン味が、更にそれを不快なものにしてくれた。
そんな状態でまともにテストを受けられるわけがない。
成績は右肩下がりだ。
両親はそんな私の異常にも気づかず、ただただ結果のみを詰問した。
そんな私に対して……あんたは何もしてないようなすました顔で、涼しげに1位を毎回攫う。
それだけならまだ良かった。
努力の差と、精神面での未熟さが私にあるのだと、納得できるから。
憎んでなんかいなかったわよ。
きっと血の滲むような努力をして、幼い頃から一歩一歩積み重ねてきた集大成が今、ここで発揮されているんだろうな、と憎むどころか尊敬していた。
そして、いつ死の審判が下されるかもわからない闇の中で、その辛さや努力を隠し、泥臭さを一切人に見せない、自尊心の強いカッコいい人だと、思っていた。
この美しい強靭さは白女王と称される。
確かに、あんたさえいなければ、という嫉妬が無かったいえば嘘になる。
それ以上に、尊敬する気持ちが膨らんでいた。
そう思うくらには、あんたのこと嫌いじゃなかった。
でもね……あんたの、その自分自身をしっかり持っているからこその強さが、私を深く傷つけた。
「如月さん、毎回1位なんて凄いね。どんな勉強してるの?」
私は何の気無しに聞く。
「別に……普通に勉強した。たまたま一番優れていただけよ。只の運。そして私と貴方達の不変の結果」
「カッコいい〜!ご両親も誇らしいわね、きっと。いいな、如月さんと代わってほしい」
「ふざけたこと言うじゃない」
凛としたその声に私と彼女を取り巻く空気がピリついた。
長い前髪の隙間から覗く切れ長の瞳が真っ直ぐに、でもそれは怒りに似た軽蔑を突きつけるような真摯さで、たじろぐ。
「え……と?」
「私になんかなってどうするつもりよ?脳内がお花畑のようで羨ましいわ」
「なっ……!」
「貴女には耐えられないわ、この重さに。だから、私は貴女にはなりたくない。貴女は私にはなれないのよ」