交錯白黒

こんな用意周到な奴は、流石にイタズラ電話では無さそうだ。

今のところ、xに関する情報が一つも無い。

なので、質問もかなり限られてくるが、そう長い時間、この話も引き伸ばせないだろう。

高田さんを信じるしかない。

僕はこのような曖昧な質問を投げかけた。

「xと会話していて気になったこと、気づいたこと、なんでもいいから書いてみて」

恐らくこれが今回最後のやり取りにならざるを得ないだろう。

何とかそれまで繋がないと……もし盗聴されていたとき、勘付かれてしまう。
 
そう思って咄嗟に出た台詞に、僕は物凄く後悔した。

「僕は、本気で麗華さんが好きなんです!だから、僕と……結婚してください。お義父さん、僕に娘さんをくださいって、言いたいんです」

琥珀が片眉を上げて、僅かに頬を赤く染め、天藍ちゃんは開いた口が塞がらないという状態で赤面。

高田さんは返事を書いているせいで長い黒髪が表情を隠し、どう思っているのかはわからない。

僕は羞恥と後悔で体の奥底から燃え尽きそうだった。

いくら演技とはいえ、やり過ぎだろ。

高田さんも引いているだろう、これでもし接触する機会が断たれたら……それは僕のせいだ。

穴があったら入りたいとは正にこのことなのだろう、と身をもって実感した。

「お断りしますわ」

ハキハキとした声でそう言い、メモ用紙を差し出してきた彼女。

ああきっと、軽蔑したような、呆れきった目で見られるんだろうな、なんて思って、顔を見ずに去ろうとしたのに、表情を確認せずにはいられなくて。

思わず顔を上げてしまった。

そこには、淡い桃色の頬をし、苦笑するようにはにかむ少女がいた。 

どこか、恥ずかしげで、困っているようで、でも、少しだけ嬉しそうに見えたのは、単なる僕の願望なのかもしれない。

< 247 / 299 >

この作品をシェア

pagetop