交錯白黒
こんな用意周到な奴は、流石にイタズラ電話では無さそうだ。
今のところ、xに関する情報が一つも無い。
なので、質問もかなり限られてくるが、そう長い時間、この話も引き伸ばせないだろう。
高田さんを信じるしかない。
僕はこのような曖昧な質問を投げかけた。
「xと会話していて気になったこと、気づいたこと、なんでもいいから書いてみて」
恐らくこれが今回最後のやり取りにならざるを得ないだろう。
何とかそれまで繋がないと……もし盗聴されていたとき、勘付かれてしまう。
そう思って咄嗟に出た台詞に、僕は物凄く後悔した。
「僕は、本気で麗華さんが好きなんです!だから、僕と……結婚してください。お義父さん、僕に娘さんをくださいって、言いたいんです」
琥珀が片眉を上げて、僅かに頬を赤く染め、天藍ちゃんは開いた口が塞がらないという状態で赤面。
高田さんは返事を書いているせいで長い黒髪が表情を隠し、どう思っているのかはわからない。
僕は羞恥と後悔で体の奥底から燃え尽きそうだった。
いくら演技とはいえ、やり過ぎだろ。
高田さんも引いているだろう、これでもし接触する機会が断たれたら……それは僕のせいだ。
穴があったら入りたいとは正にこのことなのだろう、と身をもって実感した。
「お断りしますわ」
ハキハキとした声でそう言い、メモ用紙を差し出してきた彼女。
ああきっと、軽蔑したような、呆れきった目で見られるんだろうな、なんて思って、顔を見ずに去ろうとしたのに、表情を確認せずにはいられなくて。
思わず顔を上げてしまった。
そこには、淡い桃色の頬をし、苦笑するようにはにかむ少女がいた。
どこか、恥ずかしげで、困っているようで、でも、少しだけ嬉しそうに見えたのは、単なる僕の願望なのかもしれない。