交錯白黒
「……は、何を今更」
「ほんと。何言ってんの」
呆れたような声が深い傷を刻み込み、同時に軽いフラッシュバックを起こす。
……早く消えて?
こんな性格のせいで、周りから疎まれていたあの頃。
何も知らない人たちに嫌われようと問題無い、だけど、この人たちだけには。
そんな風に、思って欲しくなかった。
でもそれは自分のせい。
吹っ切るしか、ないのかな。
鼻の奥にツンとした刺激がして、目に何かが溜まっていった。
それを零すのを堪えて、唇をかんだ。
「騙したのは、僕も一緒でしょ?僕はすぐバレちゃったけどね」
瑠璃さんがあはは、と朗らかに言ったその言葉にはっ、と唇が緩む。
「あたし、あんたに何してきたと思ってんの?あんたが謝るところなんて、一つもない。つくづく思うけど、あんたそういうとこほんと馬鹿よね」
唇が緩んだのに連動して、つうと頬を涙が流れ、顎から落ちた。
「えぇ、天藍姉何で泣いてんの」
「泣いてないわよ。眼科行ったほうがいいんじゃないの」
情けないくらいに声の震える、大根役者だった。
最初は千稲ちゃんを守ることで頭が一杯で、それに必死だった。
イジメられても励ましてくれて、太陽みたいな笑顔が輝いていて。
命懸けで私を産んでくれたお母さん、悲惨な運命を辿って若くして亡くなってしまった大切な人。
でも次第に。
嘘を吐く度、息苦しくなるようになった。
橘くんの優しさに惹かれて、瑠璃さんの明るさに助けられて。
瑠璃さんと橘くんに懐かしさを覚えずにはいられなくて。
瑠璃さんと恋藍と、千稲ちゃんが重なる。
胸が痛い。
自分が何をしたいのか、わからなくなった。
嘘を吐いていることを、騙していることがバレたらと思うと毎日が怖かった。
イジメより死ぬより、信頼してくれている彼らを裏切って、失望されるのが嫌だった。
怖くて怖くて、バレないように慎重にミスリードした、その度に泣き叫びそうだった。
でも。
橘くんには、とっくのとうに見抜かれていたんだね。
朗らかに笑う三人が目に沁みて、また涙が溢れた。
張り詰めていた弦がぷつりと切れて自由になったように心が軽かった。