交錯白黒
「ちーな、お薬効かなくなった。もう、誰かの心臓をちーなの心臓にしなきゃ、死んじゃうの。それは、天藍ちゃんも同じだよね?」
私は錆びた首をぎこちなく縦に振った。
なぜなら。
「でも天藍ちゃんは退院できた」
圧倒的に千稲ちゃんのほうが重症だから。
私もいつかは移植を行わなければ死んでしまうし、いつ死んでもおかしくはないが、千稲ちゃん程切迫した状況ではない。
「ちーなは、退院するのすら難しいって言われた」
ズキズキと心臓が痛み、呼吸が荒くなる。
「で、でももしかしたらドナーが……」
「そんなのわかんないでしょ!?」
私のフォローは塵へと化した。
「天藍ちゃんはまだ退院できるからそんなこと言えるんだよ!適当なこと言わないで!!」
体の奥底に千稲ちゃんの言葉が刺さり、全身に毒が回ったかのように痺れる。
先程までの嵐が去り、奇妙な程静かに顔を上げた千稲ちゃんの顔は、全体が涙で濡れ、苦痛に歪んでいた。
「……だったら、天藍ちゃんの心臓を頂戴よ」
その一言が良からぬところを攻撃し、指先から痙攣のような震えが上ってくる。
……もうやめて。
「もう来ないで。帰ってよ」
そう言って真っ白な布団で小さな体を隠した。
私は声が出ず、足元が覚束ない状態で病室をあとにし、ドアの外で涙を落とした。
どうして、こんなことに。
命に代えても守ってみせるって、決めてたのに。
こんなこと、頑張れば予想できた筈なのに。
私の心臓が健康だったら喜んで出していたのに。
自分を取り巻く環境をここまで恨んだのは初めてだ。
私の、大切な大切な人。
どうして――。
記憶の片隅にある、私の贈ったカキツバタだけがみずみずしく咲き誇り、私を嘲笑っているかのようだった。