密かに出産したら、俺様社長がとろ甘パパになりました~ママも子どもも離さない~

 母の弱々しい声を聞き、胸が痛くなった。

 父は昔から厳しい人で、たとえ息子でも能力が伴っていなければ、SAKAKIコーヒーを継がせるつもりはないというのが持論だった。

 そんな父が、留学中の俺に『帰ってきてほしい』と言うなんて……おそらく母の言うように、病によって心を弱らせているのだろう。父をそばで見ている母もつらいはずだ。

『……わかった。今月中に帰国できるよう手配する』

 苦渋の決断だったが、俺はそう返事をした。

 ひとりっ子の俺は、幼いころから両親の愛情を一身に受け、趣味でも習い事でも、やりたいことはすべてやらせてもらった。

 その恩は、SAKAKIコーヒーの後継者になりいっそう会社を成長させることで返すつもりだったが……今はただ、そばにいき、元気づけてやるのが、息子としての俺の役目だろう。

 たとえこちらのスクールでMBAの学位が取れなくても、今まで学んだ経験は決して無駄にはならないし、MBAは日本で働きながらでも取れる。

 ただ……唯一の気がかりは、雛子のことだった。もちろん別れるつもりはないが、突然日本に帰ると言ったら、彼女はどんな反応をする……?

< 53 / 175 >

この作品をシェア

pagetop