アイツの溺愛には敵わない
「可愛いはーちゃんを目の前にして、キスを我慢しろってのは無理な話」
「………」
颯己ってば、満足と言わんばかりの無邪気な笑顔を浮かべちゃって。
そういう表情を見ると、怒ることなんて放棄して許したくなっちゃうんだよね。
颯己に甘いな、私。
心の中で苦笑いを浮かべた。
しばらく池の近くで穏やかな時間を過ごした後、私たちは敷地内をのんびりと散歩。
最後に展望台で景色を眺めてから公園を出ると、颯己は腕時計に視線を落とした。
「もう夕方か。帰りにスーパーに寄って買い物していく?」
「食材、あまり無かったもんね。そうしよっか」
「んじゃ、さっさと買い物を済ませて家に帰ろう」
颯己に手を引かれて歩き出す。
ついさっきまで、ほぼ平常どおりだった鼓動音が徐々に騒がしくなり始めた。
いよいよ家で二人きりになる状況が近付いてきた。
本当に綾芽ちゃんの言うとおりになるかは分からないけど……
心の準備はしておいた方がいいよね。
ゆっくり買い物して、なるべく帰る時間を遅らせよう。
そう思っていたけれど、買い物は短時間で終了。
準備なんて何も出来ていないまま、家に着いてしまった。