綾川くんが君臨する
「じゃあ……わたしはこれで」
転んだの見られて恥ずかしいし、気まずいし、いたたまれないので自分から背を向けた。
だけど思いのほか足が痛くて、引きずったような歩き方しかできない。
膝もそうだけど、左の足首に違和感がある。転んだときにひねったのかもしれない。
「黒鐘、保健室そっちじゃないよ」
10秒くらい経ったとき、思いのほか近くから綾川くんの声がした。
てっきり、もうどっかに行ったと思ってたのに。
「……このくらい、べつに大丈夫」
「捻挫ほっとくと後が怖いと思うけど」
「ほんとに大したことないから平気っ……!」
綾川くんから逃げなくちゃ。
頭の中はとにかくそれでいっぱいだった。
綾川くんの気まぐれなやさしさに、これまで何度振り回されてきたかわからない。
その気もないくせにわたしの心を乱して、本人はきっとそれを楽しんでる。
最悪なのはどう考えても綾川くんだ。
はやく、綾川くんがいなくても大丈夫になりたい。
「おー綾川ここにいたのかよ〜、探したわ〜。はよ売店行くぞ」
やがて前方から綾川くんの仲良しメンバーがぞろぞろとやってきて、ほっと胸を撫で下ろした。
そのあとで、ありがとうくらい言えばよかったな、なんて、後悔する。
転んだのを笑うでもなく、心配してくれた。綾川くんらしくない。
らしくないのは……困る。