綾川くんが君臨する
「あ……りがとう……」
そうつぶやいたあとで、かなり遅れて心臓がバクバクと壊れたような音を立て始めた。
尋常じゃない速さ。
それもそのはず。だって綾川くんが助けてくれなかったら、頭打ったりして……最悪……
「しんじゃうかと思った、……あはは」
「………」
わたしの声だけが虚しく踊り場に消えていく。
さっきみたくバカじゃねえのとか罵倒されると思ったのに、無言。なぜ。
「……綾川くん?」
「あんま心臓に悪いことしないでって……おれ、この前も言ったよね」
ふいに、わたしを抱きしめる力がぎゅっと強くなった。
本気で心配してくれた……のかな。
「ごめんなさい……いろいろ気をつけます……」
「もし間に合わなくておまえが死んだら、おれもそのまま身投げるところだった」
「え、いや万一そうなっても綾川くんが責任負う必要は一切ないからね?」
「責任とか、そういうハナシじゃないよ。黒鐘、比翼の鳥って知ってる?」
「ヒヨクノトリ……?」
いきなりなにを言い出すんだろう。
「中国の伝説に出てくる鳥なんだけどね、雌雄それぞれ目と翼がひとつずつしかないんだよ。だから、二羽が一体となって初めて、空を飛べる」
「……はあ」
距離が近すぎるせいでどきどきして、内容がイマイチ頭に入ってこない。
ひとまず相槌を打ちながらゆっくりと後ろを振り向くと、至近距離で視線が交わった。
「ねえ黒鐘。たとえば今おれが手すりから手を離したら、一緒に死ねるけど」