急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

定時で混み合う前にと、亜里砂は、みんなの分の夜食を買いに、16時頃タワー下のコンビニに向かった。

二階でエレベーターを降りて、左に折れる。


「松浦さんと北柴君は、梅干しと鮭のおにぎり一つずつ…。私は何にしようかな…ぁ…とっ!きゃぁ…ッ!」

亜里砂が呟きながら、コンビニの入り口を潜ろうとした時…背後から伸びた手に、ぐいと腕を引かれ、そのまま強引にズルズルと二メートルくらい引っぱられた。
柱の陰に隠れた人目につかない所まで連れてこられたが、咄嗟のことで大きな声も出ない。

(もしかして…)

亜里砂は恐る恐る顔を上げ、目の前に立つ人物を見る。

そこには予想通り…今世でもう二度と会いたくないと思っていた男が、亜里砂を見下ろしながら立っていた。


「池澤…さん?」

二年前より、少し痩せたかもしれない。
が…変わっていない…少し長めな茶髪をワックスで固め…タレ目気味の、一見優しそうに見える瞳。通った鼻筋、営業用の笑顔の見本を貼り付けたように口角の上がった薄い唇。

ああ…こんな顔だった…かな。

亜里砂が、かつて神様の前で、気の迷いとはいえ、一生の愛を一緒に誓いあった男は…柱に両手をついて、亜里砂を腕の中に囲い込むようにすると、付き合っていた頃には見せなかったどこか歪んだ感じで、ニヤリと笑った。


「久しぶり。やっと会えた…」

「…ええ…お久しぶりです」

「なんだよ。なんでそんな顔してる?俺に会えて嬉しくないのか?まるで、二度と会いたくなかったのにという顔じゃないか」

「…仰る通り、私は貴方に二度と会いたくありませんでしたし、こんな風に今、貴方と話をするのも嫌で嫌でたまりません。
ここで大きな声を出されたくないのなら、退いて下さい」

震え混じりだが毅然として答える亜里砂に、池澤の嘘くさい笑顔は一瞬にして消え、眉間の皺がすぅっと不機嫌そうに寄った。

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