麗しの彼は、妻に恋をする
だが、珠玉のような才能を感じる作品ではない。

有り体に言えば、ごく普通。

感想のままの視線を落とし、夏目はテーブルにカップを戻した。


「倒れる前にパトロンになってほしいと言っていたとか」

「うん。そう」

「それで、なんと答えたんですか?」

「パトロンになる気はないけど、結婚か愛人かどっちからならいいってね言っておいた」

「結婚?」

「そう。でも彼女は、愛人がいいんだって」

「それは――。もしこの女性が結婚を選んだら、結婚する気だったということですか?」

「うん」
それがどうかした? といわんばかりの無邪気な目を向けられた夏目は、一瞬言葉に詰まったように喉仏を揺らした。

――冗談なのか、本気なのか?

長い付き合いなので、微妙なニュアンスの違いに本音を見つけることができるが、いまの発言は、あながち冗談には聞こえなかった。

「ちなみに、パトロンでは駄目だという理由はなんです?」

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