麗しの彼は、妻に恋をする

ちなみに柚希の生活費の半分はその陶器市で稼いでいる。あとの半分はお店で委託販売をしている売上と、時折こうして開く個展やグループ展での収入だ。

個展と言っても柚希にはギャラリーで個展を開けるほどの在庫も実力はないので、ほとんどが他の作家さんと合同のグループ展であり、個展が開けるのはごくごくたまに、街角の小さなショップの片隅で開く程度。

生活はギリギリのぎりぎりである。

「オーナーの華子さんとはお知り合いなんですかぁ?」

「私の祖母の友人の伝手で紹介してもらったんですよ」

「そうなんですか。沢山売れるといいですねぇ」

「ほんと、売れるといいんだけど」と答えながら柚希の心は不安だらけだった。

通常こういった展示会には作家自身が抱えている客と、お店が持っている陶器好きの客が来る。

それ以外にも、個展開催中の看板を見て入ってくる飛び込みの客もいるが、そればかりは予測ができない。
何しろハガキ代にも事欠く有様なので、都内在住のほんの数名にしか送れなかった。

情けないやら切ないやら。
< 6 / 182 >

この作品をシェア

pagetop